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2005年01月27日

遺影写真を間違えた葬儀(井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

これもかなり前の話だから、もう時効かな。
遺影写真を間違えた葬儀のお手伝いをしたことがある。
経緯(いきさつ)はこうだ。

その遺族には、ちょっとした事情があり、
どうしても密葬で執り行いたいということだった。
また喪主様と故人様とのご縁が浅く、
いろいろとここでは書けない事情があった。

3人のお婆ちゃんが写っているスナップ写真。
それは旅行先でのスナップだった。
当時は写真をお預かりして、その裏にポストイットを貼り付け、
引き伸ばすのはこの方、と印をつけていた。
その写真の中では、真ん中に写っている人物が
故人ということだったのだが・・・。

ポク、ポク、ポク・・・木魚の音だけが響き、
何事もなく通夜が進行している。
著名人の身内だから、マスコミにも知られたくはなかった。
自宅を離れ、かなり遠くの式場を借りていた。
葬儀委員長は、いかりや長介さんが務められているが、
基本的に誰にも報せてないので、会葬者もほとんどいない。
(ドリフのメンバーは揃っていたけど)
たまに、どこから聞きつけたのか、ポツリ、ポツリ。
そして故人のご友人関係と思われる、年配の方々が数名、
連れ立ってご焼香にいらした。

と、突然大きな声が・・・した。
静かな式場だけに、余計に声が通る。
『あーっ、あたしが写ってる !』
ビックリしたのは、スタッフばかりではない。
遺族・親族・参列者の動きが一瞬止まった。
ポク?と木魚も止まったような気がした。
(ドッキリか? いや、まさか・・・)
式場が凍りついたのは当然だろう。
さらにこのお婆ちゃんは元気が良くて、周りの友人に話しかけている。
皆さん耳が遠いのか、大声である。
『あれ、あの写真、あたしじゃない・・・あたし生きてるよね』
『生きてるわよ、でも・・・死んでるみたいね』
(そんな会話するな!)
すぐに事情は察した。
数名のスタッフが、このお婆ちゃんと喪主のところへ別々に飛んでいった。
(何とかこの~人間の出来ていない~お婆ちゃんを黙らせたかったらしい)

喪主や葬儀委員長も、改めて、しげしげと遺影写真を見つめて首を捻っている。
よく分からないのだ。
でも、本人が自分だって言っているのだから・・・、
きっとこの写真は間違いなのだろう。
という結論になった。
(まるで全員集合だよそれじゃ)

驚いたことに、取り敢えず通夜はそのままで、
つまり間違いであろう遺影写真のままで、
それも、滞(とどこお)りながら執り行われた。
(そりゃ滞るだろうって・・・どうすることも出来ないけど)
祭壇の真ん中に写真がないのもカッコ悪いということだったのだ。
(言われてみれば納得)

ここで少し触れなければならないことがある。
当時、私といかりや長介さんとはご縁が有って、
ドラマの撮影で何度もご一緒させていただいていたのだ。
いかりやさんが刑事で、私が部下の若手刑事だったり、
いかりやさんが刑事で、私が犯人だったりと、
(無茶苦茶なキャスティングですな)
軽井沢や鹿児島のロケ(違うドラマです)では、
それぞれ一週間位お世話になっていた。
だから葬祭式場でご挨拶したときには、彼も彼のマネージャーも付き人も、
皆さんすごーく驚かれていたが、知っている人間の気安さか、
とても安心してくれたものだった。
なのに・・・。

通夜終了後、私は自分が担当でもなく、葬儀社でもないのに、
(もう一つおまけに、写真を依頼したのも私ではない)
痛く心を痛め、申し訳ないという気持ちが一杯ですぐに控え室に足を運んだ。

『申し訳ございません』
・・・遺族の方は沈黙している。
『イデー、・・・全員集合のネタにするぞ!』
優しかった。
笑いをとってくれたのだ。
俳優として食えなくて、葬祭のアルバイトに精を出している私に対して、
心優しく接してくれたのだろうと思う。

そのわずか数ヶ月前・・・。
撮影で向かった鹿児島のロケ地のホテルの大浴場で、
どうしたわけか偶然にも二人きりになった時があった。
いかりやさんがわざわざ持参しているシャンプーとリンスが気になって、
『マイシャンプーですか?』
『おう、俺ダメなんだよ。お肌に合わなかったりするんだよな』
湯船の中での、確かこんな会話が・・・記憶に残っている。
(当時は、マイ~という言い方が流行っていた)
そして、身体を洗いに湯船から洗面台に向かわれて、一人残された私は、
・・・こんな時は、お背中ながしましょうか?・・・
とか言った方がいいのかな、なんて思いつつ、
そんなテレくさくてあざといことは出来ないなあ、と思い返し、
湯船の中で平泳ぎを始めた。
少し浅くて、泳ぎにくかったけれど(大事な所が擦れたりした)
3往復位した時、
『面白い奴だな、おまえさん』
しっかり鏡の中から見られていたのだ。
(そーっと泳いだつもりだったのに)
何となくこれがきっかけで、
『背中、流しましょうか』と勇気を振り絞って声をかけたら、
『そんなこたあ、するなあ』と、言われてホッとしたのを覚えている。
私がそんなタイプではないことを、しっかりと見抜かれていたのかもしれない。
(若い頃はツッパッていたのです・・・リーゼントじゃないよ・・・ふるっ)
だとしたら、通夜終了後の私の謝罪を、
どんな思いで受けとめてくれたのだろうか。
笑いによって救われた思いがし、とてもありがたかった。

翌日は、当時としては珍しかったカラーバージョンで
遺影写真を作り直し、何事もなく出棺した。
いかりやさんが葬儀委員長としてご挨拶されたが、
気を使ってくれたのか、当然遺影写真のことには一切触れなかった。
そして例の、人間が出来てないお婆ちゃんはお見送りにも参列し、
涙を流していたが、今度はvip待遇でスタッフがきっちりマークしていた。

深いご縁ではないけれども、
お世話になったいかりやさんも既に他界されている。
ご冥福をお念じ申し上げるばかりだ。

《おまけ》
FUNETに新しいコンテンツが誕生する。
名付けて「MCライブラリ」、2月から登場する予定だ。
会員の方向けの無料閲覧サービスである。
と、偉そうに言っているが、実は綜合YコムのF編集長の発案です。
葬祭実務、特に司会業務に関して多面的にフォローしたいので、
今後もシステムの充実を図りたい。
まだまだやりたいアイデアだけは一杯あるのだが、
一つひとつの実現には時間も掛かる。
もどかしい思いだ。
エッセイをご覧の皆様も、こんなサービスをやってくれ、
ということがあれば、是非お寄せください。

それから・・・
関谷君の新作葬送BGMがなかなか良いのだ、いや、とっても良いのだ。
日々事務所で聞きながら、あーでもない、こーでもないと・・・。
葬儀業界の「つんく」としては、
(だって葬送BGMだけですでに60曲送り出してるんだから)
「待ってろ、アユ!、もうすぐ塩焼きにしてやる」そんな心境だ。
(本気にしないで冗談だから)
春には、完成にこぎつけたいと思っている。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年01月27日 22:14

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