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2005年01月24日

ネタのような本当の話(井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

若い頃、人材派遣のアルバイトとはいえ、
いろいろな葬儀社さんにお世話になったので、
随分とハプニングにも遭遇した。
今となっては、そのどれもこれもが大切な思い出だ。
酒席なんかで、たまに人に話すと大変喜んでくれるので
(つまり、受けるので)その中からまた一つ紹介したい。
かなり昔のことなので、記憶もいささか断片的だが、
ピンポイントの映像だけは、しっかりと頭の中にある。
(忘れられないのだ)

それは、まだまだ携帯電話が物珍しくて、(高級品で)
ポケットベルが、葬儀社の三種の神器だった頃の話である。
(懐かしい)
その頃の葬儀社の社長さんは、一匹狼でキャラの濃い個性派揃い。
エピソードには事欠かないのだ。

20代の頃、随分とお世話になった
~仕事の度に人材として呼んでくれた~、
葬祭業を始めたばかりの社長さんがいた。
お客様の前では、どういうわけかすぐに両手を手揉みし、
落ち着きなく擦り合わせるようなクセのある、地声の大きな社長だった。
(きっと緊張しているのだろうと思う)
『社長、そんなに手を擦り合わせていたら、指紋が無くなりますよ』
と、よく冷やかしたものだ。

この人の欠点は、短気な性格はまあ許せるとしても、
横文字が苦手なくせに、すぐ使いたがるということだった。
普段から、冗談で
『ハロー』
『グーテンダーク』
『謝謝』・・・これ縦文字
『ボンジュール ムシュ』
『アロハ』
など駆使していたものだから、付き合ってあげるのが大変だった。
しかし、これもまだ許せる。
(人材は、人付き合いも仕事のうちだ)
そして許せない事件は、いつも肝心な時に発生するものだ。
(そう、事件は現場で起きている・・・by青島刑事)

『・・・ですからそれでは、時間のロースでございますから・・・』
打ち合わせに同席している私の横で、社長が熱弁を振るっている。
しかも不慣れな敬語と、お得意の横文字を駆使して・・・。
遺族の方に何度も繰り返し説明しているのだ。
私はおかしくて肩が震えていた。
「時間のロース? えっ、ロース?」・・・豚・牛・?
声がでかいだけに誤魔化しも効かない。
チラ見すると・・・親戚の方の目が笑っている。

さらに社長の説明は続く・・・。
私は嫌な予感がしていた。
調子に乗ったときのこの社長は侮(あなど)れない。

その私鉄の駅では、構内はもちろん、駅前のロータリーでさえ、
「指差し」の案内看板を立てることが禁止されていて、
許されるのは、案内提灯か案内プラカードを持った係りの者が、
道案内としてそこに居なければならない。
つまり人海戦術以外の許可が下りないのである。
その上、式場までの交通の便がとても悪く、会葬者の便宜を図るため、
式場と最寄り駅との間で、送迎バスを走らせることになった時のこと。

『ですから○○駅から葬儀式場まで、
マイクロバスで、ピストン運動いたしますから・・・』
・・・・・・(一同沈黙)
「えっ!ピストン運動?」と誰もが思ったに違いない。
それを言うなら、《ピストン輸送》だろって。
皆の一瞬の沈黙は、そう意味だろう。
周囲は大人の対応をしているのだが・・・。
社長のとらえ方はまったく違っていたようだ。

どうだ、少し驚いたな?
ここまでのサービスをするんだぞ弊社は・・・、と
得意げになって、詳細な説明に入り「ピストン運動」の連発だ。
もう誰にも止める事は出来ない。
完全にぶっちぎりの独走状態である。
距離感のない、無用にでかい声だけが室内にこだましていた。
ここまでかませば、側で聞いている私の顔が
少し赤くなっても許してもらえるだろう。

私はホトホトに疲れ、いや無事に?打ち合わせも終了し、
その帰り道の車内。
この日の言葉の誤りを、出来るだけ柔らかく、
細心の注意を払いながら、それとなく指摘してみた。
すると、
『井手ちゃん、相変わらず細(こま)かいなー』
『えっ、細かい・・・ですか?』
『意味が通じればいいんだろうが、深く考えるなって、この小心者めー』
『(語尾延ばすなよ、社長のくせに)・・・』
『便秘になるぞ』
『(誰のせいじゃ)・・・』
そして何事もなかったかのように、車内の会話は続く。
社長には、ひとり娘とかわいい愛犬がいた。
『そんなことより井手ちゃん、うちの娘がさあジョンが死んだら
燻製(くんせい)にしてくれって言うんだよ』
(ジョンとは愛犬の名前である)
それを言うなら《はく製》でしょ !
愛犬食べてどうすんのよ、おまけにこれは日本語だって。
『いいですね社長、お嬢さんジョンがかわいいんですよ、
死んだら是非燻製にしてあげましょ !』

いやあ、まったくユニークである。
ガッツ石松と勝負させたいくらいだ。

このようして、私の20代の葬祭修行は続いていくのであった。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年01月24日 22:18

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