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2005年02月27日

如月日記 ~手術のBGM~(加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

今年も「春一番」が吹いた。
私は先ごろの入院もあってか、今年は春が来るのがすごく待ち遠しい。
桜の蕾もまだ硬そうだが心なしか薄いピンク色に見えるのは私だけだろうか・・・。
さて、手術から1ヶ月が過ぎてようやくその頃のことを考えられるようになった。
人は、強いストレスにさらされると、その時の記憶を一時的になくす。
事故や事件などの恐怖に遭遇した時にも、その事実に向き合える
心の準備が出来るまで、思い出せないという。
しかしその後、その記憶は心の底から浮き上がり、必ず向き合える時が来るという。
私の入院生活も、不思議と思いだせる部分と思い出せない部分があった。
そして最近思い出してきたのが手術のときのこと。
私の中では結構なストレスになっていたのだろう。
やっとその時と向き合えるようになった。

手術の前の説明で、『好きな音楽はありますか?』と尋ねられた。
手術室でBGMとして流してくれるという。
私はうれしかった。
今回の入院で音楽は私のもうひとつの無くてはならない薬だった。
好きな音楽をMDに作ってたくさん持っていった。
ちょっと眠れないとき、モヤモヤしているとき、
周りがうるさいとき、落ち着きたいとき・・・。
常に音楽が私を癒してくれた。
BGMは、やっぱりシンプルなピアノソロがいい。
私のお気に入りのCDを看護師さんに預けた。
そしていよいよ手術の時・・・。

ベッドに横になるとその曲が流れ始めた。
この時の安堵感は今でも忘れられない。
いつものあの曲が流れているというだけで、安心するのが分かった。
しかしなかなか手術が始まらない。
すると看護師さんが
『加藤さん、ごめんなさいね。今先生にお産が入ってしまって・・・』
と言うではないか・・・。
『お産ねえ。生まれ落ちる方が、そりゃあ大事だけど、
こっちだって早いところはじめて欲しいよなあ』などと考えていた。
お気に入りのBGMをかけてもらっていて本当に良かった。
シ~ンとした手術室で、待たされるなんて考えるだけでも怖いもの・・・。
手術がはじまるまでのほんの数分だったが、だんだん麻酔も効いてきて、
ピアノのメロディーに包まれながらゆっくりと眠りに入れたことを覚えている。

退院してから、やはり眠れない夜が多い。
今までこんなことは無かったから余計に気になる。
しかしこれは仕方が無いこと。
少しずつ身体の回復と共に、眠れる時間は増えて行くだろう。
そしてやはり枕元にBGMはかかせない。
ちょっと眠りにくいときに、私は「波」の音を聞いている。
音楽だとメロディーや歌詞が気になって余計眠れなくなるが、
「川のせせらぎ」や「雨の音」などは、すごく安らぐ。
私が聞いている「波」は沖縄慶良間諸島の波の音のCDだ。

悲嘆というストレスの中で、私たちのお客様は
他人には計り知れないほどの辛い想いを抱えている。
私たちスタッフは、その中で少しでもその心を軽くしていただけたら
という想いで、すべての仕事を通して接している。
その中のひとつのパーツとしての音楽は、
精神的な部分で大きな意味を持っていると改めて感じている。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年02月27日 03:36

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