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2005年05月22日

「火葬のみ」という葬儀空間(加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

その叔母は、姑の末の妹。
兄弟は10人以上いたが、すでにそのほとんどは亡くなっている。
独身を通した叔母にもちろん子供はいない。
若い頃から病弱でその人生の50年近くを八王子のある病院で過ごした。
そして深い事情で兄弟とも随分前から行き来はなかったという。

その叔母の姉である私の姑が、唯一東京に住んでいるということで
いつの間にか身元引き受け人になっていたらしい。
姑は、この義理の妹の深い事情を息子である私の主人にも、
もちろん私にも長い間話さなかった。
だから私たち夫婦が2年程前に初めて会いに行き、(主人は50年振り)
その次に見舞った時にはすでに叔母に意識は無く、
3回目に会う時には、亡くなってからという悲しいお付き合いだった。

生前から「自分の葬儀は火葬だけでいい」と言っていたらしい。
すでに病院が住所になっているので帰る家もない。
一時は我が家に連れて帰るかということも考えたが、姑はそれをためらった。
万が一の時には、実の兄たちには任せられない事情もあり、
姑も86才という高齢だ。
「最期は私たち甥夫婦できちんとしてあげよう」と、前々から話し合っていた。

しかしながら、八王子というよく知らない土地で、
「火葬のみ」という葬儀をどうやって出そうかと悩んだ。
危篤の知らせを受けてから病院に駆けつけ、
待合室の電話帳で葬儀社の番号を調べた。
ここ数年増えてきた親戚の葬儀は、いつも私が手伝っている。
(多くの叔父、叔母は「自分の時は直美に任せたよ!」とすっかりその気でいる・・・)

しかし身内としては初めての「火葬のみ」という葬儀が、
一体どんなことになるのか、その時どんな気持ちなのかは未知数だった。
とにかくいくつかの葬儀社に電話をして、ある程度の詳細を調べる必要があった。
電話帳を見て5社に絞り電話をした。
「火葬だけということ」
「連れて帰る場所が無いこと」
「どの位の予算がかかるか」
「それ以外に何にお金がかかるのか」の、4つを聞いた。
私もこのような仕事をしているので「火葬のみ」という葬儀が
葬儀社側にとってはどんなものなのかをよく知っている。
だからはじめから、あまりいい反応は期待していなかったというのが本音だ。
案の定そっけない葬儀社もあった。
でも大体がていねいな応対で、私はほっとした。

叔母がコツコツと貯めていた定期預金があったが、
思った以上に病院の支払いが次から次から来て、
納骨する予定の長兄の菩提寺からもお経料や戒名料の打診があって、
葬儀代金は低く抑える必要に迫られた。
(お経料・戒名料とは言いません、全てお布施です・・・by井手)
葬儀社に相談をしたところ、一番高い料金と一番安い料金の差は10万円あった。
それぞれに内容は聞いたが、本当の意味でその10万円の差が何かということは、
遺族として体験してみないと分からないというのが、葬儀の本当に怖いところだ。
遺族側にとっては「一つの賭け」でもある。

その中で私は、M祭典の最初の電話に出た男性の応対が忘れられなくて、
そこにお願いすることにした。
『電話』という顔が見えないコミュニケーションで、
何が私をその気にさせたかと言うと、
「ていねいな言葉づかい」「聞いていて落ち着く声」「ゆっくりとした口調」
「私の気持ちを聴いてくれて、思いやってくれるという安心」だった。
(料金的には5社の中で中間程度)
遺族は『最初の電話』のやり取りでその後の葬儀の全体をイメージしてしまう。
応対が悪ければ葬儀全体も悪くなるという想像をしてしまうのだ。
葬儀というほんの数日のお付き合いでも、遺族は心地よく過ごしたいし、
気持ちよくお金を支払いたい。
その葬儀社の担当者との関係性が、
すでに最初の電話応対で決まると言うことを実体験した。

私たち夫婦と茨城からかけつけた従兄妹、葬儀社の担当者の4人だけで、
飾るもの、世の中のしがらみ、世間体を気にする一切のものを省いた
その炉前での最期のお別れに、「葬儀の原点」を見たような気がする。
そこにあるものは心から見送る気持ちだけ。
八王子火葬場の火夫さん他スタッフの素晴らしく丁寧な応対も、
私たちの悲しみの心に、暖かくしみた。

5月10日 さようなら明子叔母さん 71歳
魂は安らかに五月晴れの空に昇っていった 合掌

<井手の割り込み>
大変感じの良い応対をしてくださったのは、八王子の溝口祭典様でした。
因みに弊社とはまったくお取引も何もございません。
それから八王子市営斎場の職員の皆様にも感謝申し上げます。

実は、問い合わせに対して感じの悪い応対をされた葬儀社もございましたが、
それは申し上げられません。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年05月22日 19:05

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