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2005年12月12日

ホスピスライブ (加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

12月には、4回(週1回)のホスピス内ライブをさせていただくことになった。
(今日は12月の第1週目だ。)
12月は町並みもクリスマス一色となるが、ホスピス内はいつもの静かな、
そしてどちらかと言えば重い空気が流れている。
私は初めて月曜日のボランティアチームの皆さんと会う。
私を見ると、ボランティアの方がとても喜んでくださった。
水曜日にライブをしているのを知っていて
「月曜日に来てくださって本当に有難う」
とスタッフの方々が口々に言ってくれる。
こんなに喜んでくださるなんてとてもうれしい・・・。

ラウンジにあるピアノは、正直言って音はよくない。
もうだいぶ調律もなされていない様子だ。
それにも増していつも鍵がかかっていて、弾く人はめったにいないということ。
ボランティアコーディネーターの牧師様が、
まず私に気をつかっていらしたのがこのピアノの音のことだった。
でも私は、音が相当狂っていない限りいつでもどこでも、
どんなピアノでもそこにあるものをていねいに弾かせていただく。
これは音楽会では無いし、そこにいる方の気持ちや場所の雰囲気を
和らげるための演奏が主な仕事で、主役は私ではない。
音楽を相手に届けることこそが大事であり、
それを聞いている方が何もおっしゃらないのならそれでいいと思うから。

現在広く世の中では、多くの音楽家が施設などで、
無償で音楽を届ける時代になった。
ある場所で聞いた話だが、中には「ピアノの音が悪い」と言い、
それを理由に帰ってしまう人がいるという。
音楽家を呼ぶ側は、「無料」ということから、
随分気をつかい申し訳ないという気持ちで声をかけているはずだ。
ボランティアをする場所での主役は、どちらかと言えば演奏者ではなく、
聞いてくださるお客様であるという
「ホスピタリティ分野のメカニズム」が分からない限り、
こういうことは繰り返されるだろう。
演奏者は、自分がそのボランティアを受諾して、演奏に来たからには、
「何があっても、最後まできちんと演奏して帰る」
という当たり前な覚悟を持ってほしい。
世間に、演奏者というのはそういう人ばかりと思われるのは辛すぎる。

同じようなことが、葬儀に入る演奏者にも言える。
かつて私が司会をした音楽葬に、ある音楽事務所の
バイオリンとピアノの女性デュオが入った。
その奏者は、式場内の通路に堂々と自分のバイオリンケースを置き、
親族がお顔を拝顔し涙している中で、
ピアノの女性と開式前ぎりぎりまで音あわせをしていた。
葬儀式場はリハーサル室ではない。
せめて30分前には切り上げて他の場所で練習して欲しい。
その葬儀の帰りには、会葬者が帰る同じ道をバイオリンのケースを抱え、
くわえタバコで喋りながら歩いていた。

又、違う葬儀では弦楽四重奏の楽団が、大きなチェロや楽譜、衣装を抱えて、
開式30分前に、葬儀式場の入口から記帳している会葬者にぶつかりながら
バタバタと入ってきた。
「道が混雑して遅れた」と言いながら・・・。
その事務所の女性社長は黒いスーツに派手な化粧、
ピンヒールの靴を履き、緊張してなのかものすごく怖い顔をして
会葬者から見える位置に座り、演奏者をにらんでいた。
(見守っていたのかもしれないが)

このような態度を笑われるのが、本人たちなら別にいい。
しかし、笑われるのは本人達では無く、この人達をつかっている葬儀社だ。
私が担当者だったら二度と演奏者として呼びたくない二つのパターンだ。
前者の事務所社長に、それとなく女性デュオのマナーを打診したら、
ナント!「逆切れ」された。
「この事務所には、二度と現場の本当のことを教えてあげない」
と心に誓った私だ。
そのご葬儀がたとえ音楽葬であっても、式場は音楽会の会場ではない。
主役は儀式であり故人であり多くのお客様だ。

演奏家というのは、何も葬儀の仕事だけに派遣されるのではない
ということも分かる。
つい昨日は華やかなパーティーの会場であったり、イベントだったり、
自分が主役になる演奏会であったり、拍手をもらったり、花束をもらったり・・・。
そこは自由で派手な場所ばかりである。
そして葬儀の仕事をするときには、
笑顔はもちろんのこと、私語や無駄な動きを制約される。
葬儀の演奏の仕事はよほど経験を重ねないと出来ないことなのかも知れない。
しかしそれは自分の都合であり、ここは紛れもなく葬儀の式場なのだ。
素晴らしい才能を持つ多くの演奏家が、
ホスピタリティ分野の現場でもっと音楽を生かして行く時代が来て欲しいと、
私は願っている。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年12月12日 18:17

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