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2006年04月10日

霊柩車と親指 (井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

霊柩車を見かけると、老若男女を問わずに親指を隠すという行為。
これは「親の死に目に会えなくなる」「親が早死にしてしまう」からだと言う。
じゃあ失礼だが、どう見たってもう親は存在しないだろう…と思われる
かなりご高齢の方が親指を隠すのはただの習慣ってこと? になるのか。
漫才風に突っ込めば、親指隠す前に自分そのものを隠せ!
…みたいなことになっちゃうのかね。
それとも開き直って、もう親はこの世に存在しないから、
霊柩車に向かって堂々と「イエーイ!」と親指立てても面白いけど。

「霊柩車を見たら親指を隠せ」
小さい頃に誰からともなく教えられ、気づいてみれば周りの誰もが知っていた。
(♪♪何処の誰だか知らないけれど、誰もがみーんな知っている…みたいなね)
これは「夜は爪を切るな」と同じくらい有名な迷信。
今日はこれをテーマに決めたっと。
その前に迷信とは、科学的根拠のないものだが社会に影響を及ぼすもの。
「風邪は他人に移すと治る」「しゃっくりが100回止まらないと死ぬ」
「夜口笛を吹くと蛇が出る」「ワカメや昆布を食べると髪が増える」など。
はっきり言って全部ウソ、この時点で少し結論が見える。

そもそも霊柩車が登場するのは大正時代。
だから「霊柩車を見たら・・・」の以前は「葬列を見たら・・・」だったのだ。
世の中の進化に伴って表現の対象が変化したということだろう。
しかし、霊柩車だろうと葬列だろうと、本当に言いたいのは
「お葬式に遭遇したら親指を隠せ」ということではないだろうか。
不祝儀からの負の連鎖を避けたいと思う素朴な心情の表出だろう。

余談だが、親指隠しバージョンは全国に色々とあって、
「お墓の前を通る時・・・」「救急車を見たら・・・」等も存在するらしい。
また民俗学的にはもっと深く、
「夜道を歩く時、親指を隠しているとキツネに化かされない」
「疫病を避けるには両手の親指を隠していると効果がある」
「道で猛犬に出会った時は、親指を隠して拳を握り犬の目から逸らさない」

こうなってくると、一体親指の役割とは何だ? となるではないか。
そこで五本の指の名称とその謂れについて調べてみた。
本来、手は<指>、足は<趾>と区別して書いていたらしい。
確かに字面を良く観ると納得がいく作りである。
「外反母趾」って言うもんね。
「ゆび」という表現になる以前…平安時代の頃までは「および」と
言っていたらしいが、それが後に「および」⇒「ゆび」と簡略化された。
親指は「おほおよび」、人差し指は「ひとさしのおよび」中指は「なかのおよび」
薬指は「ななしのおよび」小指は「こおよび」と呼んだ。
んー、何だかとっても「雅(みやび)じゃーん」。
因みに、悪者には「サツのおよび」なんちゃって。
「何?およびでない・・・こりゃまた失礼! ついでにガチョ~ン」

何気なく、親指・人差し指・中指・薬指・小指と書いたが、
もちろん誰が名付けたかは不明。だから異称も存在する。
人差し指は、お兄さん指とも言うし、
薬指はお姉さん指、または紅指し指なんて色っぽい言い方もあるぞな。
そうすると小指は、鼻くそほじり指・・・とは言わないよ。

指の機能を比較すると、親指だけが特殊らしい。
親指だけが他の全ての指に対抗して動くのだ。
これは哺乳類の中でもサルの種族と人間だけとか。
樹上生活の影響と一般に指摘されているようだが、私の説は違う。
私の説では…
人類は生き残るために動物の屍骸を食った。(食うしかなかった)
例えばライオンに襲われたシマウマの屍骸に、
ライオンの食事の後、ハイエナが集り食べ尽くす。
そして本当に骨だけになって捨てられた屍骸の周りに、
食い物が取れなくて絶望した人類の祖先がやって来る。
ハエがたかるその屍骸の周りで人類は考える、生き残るために知恵を絞る、
人類特有の好奇心の為せる業か、偶然にも骨を砕き食らい付いた。
そして栄養満点の骨髄という高カロリーを啜る(すする)までに
そう時間は掛からなかっただろう。
骨髄は高脂肪・高カロリーだから、体の維持には適している。
ゴミの山から宝を見つけたようなもの。(歴史とは意外とこんなものかも)
サバンナで弱肉強食が繰り広げられ、その弱者の屍骸に生きる術を見つけた。
まあ、自分たちに特化した食物を見つけたということだ。
こうして初期の人類は、混沌とした食物連鎖の中で自分の居場所を確立する。
私は人類の出発点はハイエナ以下だと思っている。
本当の意味で「始末屋」なのだと。
そして適度な大きさの骨を、持ち歩く、捌く、武器にも道具にも使える。
やがて人類は大きく飛躍の瞬間を迎えることになる。
この過程で親指が特殊な発達を遂げた…と私は思っているのだ。
皆さん、軽く手を握ってみてください。
牛や馬のあばら骨が丁度掴める大きさでしょ。
(このーハイエナ以下っ!・・・ごめん)

手と脳の発達による人類の飛躍は、時代を経ても我々の意識の中に、
親指の特殊性を刷り込んでいるのではないか。
人類共通のコードの中に親指だけは特別な指であると。
五本の指の中で一番力が強く、太い指。
長さは小指と変わらないのに、何故だか関節の数が違うのだ。
親指の役割は特殊任務であると言える。
アイアイだったら、一本だけ異常に長く伸びた中指が特殊任務。
オラウータンだったら、周りの草を根こそぎむしる為の手のひらが特殊任務。
特殊任務を担う故に、他とは異質な発達を遂げるのだ。

親指を隠す行為に話を戻そう。
親指を隠す行為はその名の通り、親を隠すことにも繋がり、
「死」や「穢れ」というものから親を守るという意味もあるが、
一方で親指の特殊性から鑑みて、自らの身体に悪い影響が及ばないようにと、
特殊任務に支障が起きないよう、精一杯の防御の姿勢を取っているのだ。
だからこそ上述した
「夜道を歩く時、親指を隠しているとキツネに化かされない」とか、
「疫病を避けるには両手の親指を隠していると効果がある」とか、
「道で猛犬に出会った時は、親指を隠して拳を握り犬の目から逸らさない」
…という親指隠しバージョンが他にも存在するのだ。

つまるところ親指を隠す行為は、無益な厄災を防ぐということだろう。
逆に言えば、人間のアキレス腱は親指であり、
邪悪なものに狙われやすい場所とも考えられていたのでは。
親指は見かけによらず、意外とセンスティブで、
古来より霊的なモノとの交信基地とも考えられていたようだ。
具体的には、親指の爪の間から霊的なモノが出入りすると。

このように葬祭に関する事象には姿を変えた伝承が残っているから面白い。
人を葬る、弔う、という行為が遥か昔より脈々と繋がっているからだろう。
さて、では親指を隠す時の注意事項。
決して女性は、中指と人差し指の間から親指を見せないでね。
意味が違ってきまーす。
それから私のように迷信なんか信じないぞって人でも、
霊柩車に向かってこれ見よがしに親指を立てて
「イエーイ!」は止めましょう。(私が怒られます)

<おまけ>
今日は加藤がピアノのレコーディングです。
気が強い加藤のタッチをどれだけ柔らかく弾かせるかが私の役目。
またまた新曲のオリジナル葬送BGMですが、
どちらかというとナレーション専用のイメージで曲作りをしてきました。
これが仕上がれば、今後は数回に分けて、
ナレーションを大量にレコーディングする予定でいます。
イエーイ!

<井手の別腹>
「エンガチョ」って知ってますか?
子供の頃、汚い物に触れたり、あるいは見たりした時に、
「エンガチョ」と言って隣の子に触れると、それは触れた子に移り、
自分は厄災を除くことが出来るという<まじない遊び>のようなもの。
この時、同時に両手でバッテンを作るとバリヤーのようになって、
自分には絶対移らないというルール。
関西地方では「ビビンチョ」って言うらしいけど。
親指隠すのと何処が違うのよって思うなあ。
今度から霊柩車を見たら「エンガチョ」って言ってバッテン作って下さい。
少しは子供の頃に戻って楽しくなれるかもね。

<ついでに1>
「ひつぎ」には2種類あって、空の場合は「棺」、入っていれば「柩」だそうです。

<ついでに2>
同時に同じ事を言った時、
「ハッピーアイスクリーム」と言って相手を叩くと、アイスを奢って貰える。
知ってました?

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2006年04月10日 00:00

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