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2014年07月25日

神奈川・長野の葬祭ディレクター技能審査対策講座を終えて (井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

平塚から長野を周って帰郷しました。
最近は、やるべき事柄が益々増えて忙しいです。

ある方からの情報によりますと、「式衆」を
「しきしゅう」ではなく「しきしゅ」と読みなさいと言われたが…
まあ説明会でそう云われたのなら、従った方が良いのでは…と答えておきました。
しかし、概論にも「しきしゅう」と振り仮名が…と云われて困りました。
あんまりいい加減では納得しないでしょうから、
2005年の9月30日(9年前です)に書いたエッセイを引用させてください。
だらだらと長くてすいません。


2005年09月30日 愛知研修報告2 (井手 一男) カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

前回、<互助会天国>愛知県での司会研修報告をさせていただいた。
その続きである。

プロの司会の方から面白い質問をいただいた。
名古屋のある葬儀社では、日蓮宗以外は「式衆」(しきしゅう)という言葉を
使ってはいけない、そんなことも知らないのか、とご指摘を受けたとか。
その日彼女が担当したのは、曹洞宗であったらしいのだが、
そのご住職からは何のクレームもないし、今までも他宗の導師から
同様の注意を受けたことがない、また同じく他の葬儀社でも
そのような注意をうけたことがないのだが、本当のところはどうなのか?
一般に「式衆」とは導師を補佐する僧侶のことと思われているだろう。
10年前からスタートした葬祭ディレクター試験でも、
1級の司会の設問には必ず「導師・式衆入場」という式次第項目がある。
そして仏式であれば、宗派を問わず使われている。
つまり、「式衆」という言葉はある程度認知されていると判断してよいだろう。
この葬儀社さんの勘違いではなかろうか。
試験用の参考書「葬儀概論」の中にも式衆という言葉が出ており、
その読み方は「しきしゅう」となっていたような・・・。
ただ私も注意する点は、僧侶としての位が上の方が・・・例えば近隣の他の
寺院の住職など・・・が諸般の都合でその時だけ式衆を務められることがある。
その場合はこちらも配慮して、○○寺ご住職が云々という紹介をするケースも
あったが、葬儀としては導師以上の立場では決してないのだ。

少し調べてみよう、ということで手元に「仏教学辞典」がある。
「式衆」という言葉は掲載されていない。(驚きでしょ)
その代わり、「職衆」と書いて「しきしゅ」という言葉が載っている。
その意味を要約すると、<諸役をつとめる僧侶>のことで、
本来、色袈裟を着用したから「色衆」(しきしゅ)と書いたが、
後に諸職をつとめるという意味で、職の字を書いたらしい。
(因みに衣体の色で諸役が異なったようだ)・・・これはセミナーで説明してます。

ここからは私の推測なのだが、
【色衆】が【職衆】になり、そして【式衆】となったような気がする。
さらに「衆」という字に「しゅう」と読ませることは仏教では珍しいのだが、
日本風の読み方で「しゅう」と発音してしまっているのだろう。
それが業界で一般化してしまった。

漢字の読みの主流は「呉音」と「漢音」である。
現在の私たちに馴染み深いのは「漢音」の方で、
それは学校で教わるものは漢音が主流だからだ。
しかし、仏教語で多く使われているのは「呉音」である。
そして仏教語の読みの感覚だと「衆」は「しゅ」としか読まないのだ。

少し曖昧な記憶で申し訳ないが、漢字はそもそも「呉音」で入ってきている。
この時は日本海側から民間レベルで伝播してきたものだと言われている。
時を経て「漢音」で発音することを朝廷が勧めたが、時すでに遅し・・・。
日本で漢音読みが主流になるのは明治以降のことだったような・・・。

・・・曖昧では申し訳ないのでレポートします。
日本に最初に漢字を伝えたのは百済。
この百済と中国との交流は、当時の中国文化の中心であった南朝と行っており、
従って百済の漢字音は、その地域の言語「呉音」をもとにしていた。
(簡単に言うと南方の方言みたいなものだろう)
日本には6世紀に百済から仏教が伝来するが、当然呉音で読み下している。
しかし7・8世紀になると、隋・唐による中国の統一(北朝)で、
字音が漢音に改まる。
その頃、日本から中国に向かった遣隋使や遣唐使の一行は、
皆呉音読みだから、相手に全く言葉が通じなくて困ったという。
そして793年、桓武天皇はそれまでの呉音を改め、時の中国に習い
漢音(文化の中心、長安の発音)を正式な字音とする勅命を下した。
以来、公式の用語は漢音で読まれることとなるのだが・・・。

今も昔も、僧侶が我が儘なのは変わらないようだ。
当時社会的に力を有していた僧侶たちは、せっかく慣れ親しんで暗記した呉音
読みの経典などを、また1からやり直して漢音読みにすることに猛反発した。
一度苦労して憶えたものを、今更やり直すのは解せないと・・・
聞いている人に、お経の意味が分からなくなろうとお構いなしだ。
自己中心でグローバルな視点を持ち得ない僧侶の欠点か?
こうして寺院を中心に呉音が生き続けたのである。
それは日常生活に定着している言葉にまで影響を与えている。
これが、漢音が呉音に取って替わることが出来なかった最大の要因であろう。

仏教は「漢字が読みにくい」とか「言葉が難しい」とか言われるが、
まったくその通りである。(誰が悪いのか・・・もうお分かりですよね)
馴染みのある簡単な文字でも、仏教語としては読みにくいものが多い。
品は「ひん」ではなく「ほん」、立は「りつ」ではなく「りゅう」、白衣は
「はくい」ではなく「はくえ」、声明は「せいめい」ではなく「しょうみょう」。
寺院名でも一般には漢音読みせずに、呉音で読むのが普通である。
例えば弘明寺は「こうみょうじ」ではなく「ぐみょうじ」。
一般に使われる言葉を例にとっても、文書という言葉は、仏教後としては
「もんじょ」と読むし、変化は「へんげ」、利益は「りやく」、
「選択」は「せんじゃく」と呉音読みするのだ。
(これは大変だ・・・とっつきにくいよね)

日本の漢字は、漢音・呉音・唐音(鎌倉以降に主に禅宗の影響下で入ってきた)それに慣用音(日本独特の読み下し)と、一つの文字で何種類にも読むことがあり、
それが文化なのだろうけど、難解であることに間違いない。
日本の小学校の6年間で習う漢字は約1.000字で、中国では3.000字らしい。
さすが漢字の本場と思っていたら、中国では漢字の読み方は
一字一種と決まっており、しかもその読み方がそのまま話し言葉になるそうだ。
日本では一つの漢字で幾通りにも読み下すので・・・例えば「生」という字は、
「せい」・「しょう」・「いきる」・「き」・「うむ」・「はえる」・「なま」など多数・・・
訓読みまで入ってくるからそれらを合算すると、日本の小学校の勝ちである。
(漢字の国、中国に勝ってしまった)

しかしながら仏教語が日本語に与えた影響もまた大きい。
時代劇で、
「先生、引導を渡してやっておくなせい」と言われて登場するのが素浪人。
これ「殺せっ!」ってことでしょ。
一昔前のオバちゃんが、(最近は耳にしないけど)
「あーあ、このテレビお釈迦になっちゃったよ」
壊れて使い物にならなくなったっていうことですよね。
使い物にならないものの代名詞に「釈迦」を持ってくるのは凄すぎ!
「チクショー(畜生)、このくそガキ(餓鬼)!」って罵倒したら、
仏教語を二つも重ねていることになります。(合掌)
だって仏教的な考えでは、衆生(全ての生き物)は死ぬと、
それぞれの業に応じて天上道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道の
6つのステージ(六道)を輪廻することになっていますからね。
一般には難解といわれる仏教語であっても、千年以上に渡る漢字の歴史の中で
日常生活に根ざした言葉は、平気で使われているのだ。
(何となく悪い言葉が多そうだけど)

式衆から漢字の話に脱線し、そのまま終わります。(無責任)
まあ一口で言って、抹香くさい言い方をするのが呉音でしょうか。
仏教語は一般に呉音読み・・・これを覚えやすくするのに
お寺の鐘が「ゴオーン」!
(これセミナーのネタなんだけど、いつも誰も笑いません)

<井手の割り込み>
私が高校の頃、アグネス・ラム(アグネスチャンじゃないよ)という
美貌のダイナマイトボディの持ち主がいて、かなりのファンだった。
当時飼っていたマルチーズの名前を「ラム」にしたのもそういうわけだ。
で、彼女の父親は中国系で、「ラム」とは「林」と書くそうである。
(広東語の発音らしい)
アグネス林・・・一気に熱が冷めた。
(青春とはこんなものだ)

因みに上人(しょうにん)とは、仏教用語を漢音で読む数少ない例である。

今、改めて調べると

コトバンク
職衆の用語解説 - 仏教儀式(法要)になんらかの役割を帯びて 出仕する僧侶集団をいう。色衆,式衆とも記し,〈しきしゅ〉と読む場合もある。

国語辞書―goo辞書
しきしゅ【職衆/色衆】とは。意味や解説。法会のとき、梵唄(ぼんばい)・散華(さんげ)など の職務をつとめる僧衆。

等と出てきますが、もうどちらでも良いような気がします。
ただ、本来は「しきしゅ」としか読まなかったと思いますよ。
四弘誓願でも「衆」を「しゅ」としか読みません。

あー、エッセイ1回分助かりました。
では

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2014年07月25日 08:51

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