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2006年03月15日

新設葬祭ホール見学会(加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

実家の側に葬祭ホールが出来た。
母が一緒に見学会に行って欲しいというのでその初日に同行した。
一消費者としての素直な感想は、「お客様向け見学会」ではなく
「新規・会員獲得・決起集会」という感じ・・・。

受付を済ませると一応ひととおり、女性が付き添って館内を見せてくれた。

湯灌のお部屋では、やたら詳しく説明があった。
(とりあえず普通のおばさんになって聞き入った)
湯灌の後に全身に綿で着物を着せてくれるという。
その写真も飾ってある。
しかし母は「洋服の方がいいよねえ」と短刀直入に言った。
すると係の人が「綿は、大変神聖なものですので・・・」と言った。
私は「どういう風に神聖なの?」と聞こうとしたがやめた。

「会席料理の試食会もありますので・・・」と、
母は電話勧誘の女性から聞いていた。
実際には、小皿にのったお寿司と冷めた天ぷらを立ったままいただいた。
一通りの見学が終って「すでに会員になっている」と言ったら、
「じゃあ、なにかあったらお電話ください」とだけ言って
誰かに呼ばれたようでその女性は行ってしまった。
「じゃあ・・・」は無いでしょう。
せめて、「本日は、おいでいただきありがとうございました。
これで一通りのご説明は終わりでございます、と言ってくれたら、
終わりと言うことも分かっただろうに・・・」
「何か、ご不明なことやご質問はございませんか?」
の一言もなく、放り出された感じだ。
母と私は、これからが本番だったのに・・・。
たくさん聞きたいことがあったのに・・・。
私たちの気持ちを知ろうともしないで行ってしまった。

私たちはどうしていいかが分からずに、
とりあえずテーブルの空いている所に座り休憩をした。
母は質問することをメモにしたためて持っていた。
聞きたいことをたくさん用意して、我が町に出来たこの葬祭ホールと、
少しでもつながりたいという気持ちで、わざわざ来たのに・・・。
その気持ちは一気に冷めた。

母が聞きたかったこと
① 3口分のお金は、すでに払い込んであるが、葬儀1件につき何口が必要なのか
  (自分と夫の両方分に足りないのなら、もう一口入ろうかと迷っていた)
② その値段で、どの程度の内容ができるのか
③ このホールでは白木の祭壇は使わないと言ったが、
  その他のどんな種類の祭壇があるのか
④ 花祭壇は、どの程度のもので、いくら位のものがあるのか・・・など等

母は76歳になる平凡な主婦だが、あなどるなかれ。
随分と葬儀のことを勉強している。
「お葬式のこと、もっと色々と知りたいとは思うけど、
見学会みたいなのが無いと、なかなか来れるものではないでしょう?」
と母は言う。

私は忙しそうに歩き回る女性を一人つかまえて、
母が聞きたいことを質問してみようと思った。
皆「会員獲得」に忙しいらしく、しばらく待たされて一人の女性が来た。
息を弾ませながら、私の横のいすにいきなり座ると
「ナンでしょう?」とぶっきらぼうに言った。

もし・・・
「大変お待たせいたしました。私、○○と申します。
本日はお越しいただきありがとうございます。
何かお尋ねになりたいことがおありとのことですが、
今お返事できるものでしたら、お答えさせていただきますが・・・」
というような前置きがあったら、母も私もどんなに救われたことか・・・。
しかし・・・
「こっちは忙しいのよ」みたいな態度をとられると、
さすがの私だって悪いなあと思ってしまう。
本人にそんな気はないことは分かる。
しかし私たちは、素直にそう感じたのだ。
そこで、質問はやめようかと一瞬ひるんだが、
めげずに、①~④のことを尋ねて見ると、
「ええ~~~~~~~~と・・・」
「ンンンンン~~~~と・・・」と
ため息交じりの前置きをしながら、自分のファイルをめくっている。
そして「ホールでの祭壇の写真も、花祭壇のイメージ写真も無い」と言った。
「はあ? 何のための見学会なの!」
「誰のための見学会なの!」
これからこのホールで葬儀を行ないたいと思っている私たちにとっては、
何の意味も無い見学会だった。
不安を解消したいと訪れたのに、さらに不安になってしまった。

「会員獲得」自体を悪いことだとは言っていない。
それも立派な仕事の内だ。
しかし、この見学会に来ているお客様には、
色んなタイプがいることを知らなくてはいけない。
そしてすでに会員であるお客様にも、
新規会員以上に気持ちを向けることは必須だ。
今まではそのやり方が通ったのかも知れない。
でも、そろそろそのやり方を見直す時代が来ている。
他府県で大手のこのような葬儀社に対抗して、小さな葬儀屋さんがまとまって
「お客様のための葬儀」を創り出そうと頑張っているということを聞いた。
「負けるな!!」と思わず応援したくなる。
本当の意味で、何を大切にしなくてはいけないのかに、
気づいた葬儀社が生き残って行くのだろう。
「お客様はどうしたいのか」
というシンプルなことに早く気づかないと手遅れになる。
「主役は誰?」 それはお客様だ。
葬儀社でも、スタッフでも、小奇麗なレディたちでも、営業でもない!
お客様だ。

どんなに素敵な建物があっても、どんなに高価な制服を着ていても、
胸に葬祭ディレクター1級なんてものぶらさげていたって・・・
もっと大切なものがあるでしょ?

母が最後に一言、つぶやいた。
「釣った魚に、餌はやらないってことだねえ~~」と。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2006年03月15日 00:15

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