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2005年01月06日

少し創作気味の本当の話(井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

昨年の暮れも押し迫った頃、弊社の事務所近くで強盗事件が発生した。
私はたまたま新潟に居たので、私自身にはアリバイがあるのだが、
被害金額は現金で1億4千万らしい。
(新潟で仕事をしていて良かった・・・なんでやねん !)
明け方の4時ごろに窓を破って8人の男が堂々と忍び込み、
家人を縛り上げた上の犯行だとニュースでやっていた。
その日は上空にヘリが飛び交い、辺り一帯は物々しい雰囲気だったとか・・・。
家人に怪我が無かったことが何よりだが、まったく物騒な世の中だ。

現金で1億4千万???
まだ事件の記憶も新しく、憶えてらっしゃる方も多いと思うが、
正直何に驚いたかと言えば、現金で1億4千万・・・にである。
(貧乏人は嫌ですねえ)

先日のこのコラムに掲載した、ミュージシャン関谷さんの体験、
「危機一髪!ベネズエラ盗難事件」、うら若き関西弁乙女の絶体絶命・・・、
幸い未遂に終わったらしいが、その被害額が3万円。

これからお話しする、我が家が体験した盗難事件は、
さらに規模が小さく、被害は中古の自転車一台である。
何とも情けない話なのだが、記憶が薄らぐ前に、
事の顛末を記しておこうと思う。
我が家を新築したのが3年前になる。
その頃の事件だ。

弊社は、私が永く都内のある葬儀社と親しくさせていただいていた関係で、
数種類の祭壇から、柩、骨壷、テーブル、受付セット一式、マイク、テント、
棺台、棺敷など倉庫にたくさん所有しているのだ。
そればかりか、柩の蓋置きから無宗教用の献灯トーチ、司会台、
パンチシート、イーゼル、撮影用のハロゲンライト、様々な幕etc、
ほとんど趣味的に集めているものもある。
また、身内や親しい人が亡くなられた際には、
弊社で葬儀を施行することも不可能ではないし、
実際過去に何度かはそういうケースもあるのだ。
(施行見積書などもちゃんとあるのです)

しかし弊社は葬儀社ではない。
では何故そういうものが有るのかというと、司会だけではなく、
葬儀に関することは何でも出来るようにしておきたい・・・
という私の意地みたいなものだ。
一般に、葬儀司会者に納棺は出来ないだろうし、受注見積もりも不可能だろう。
葬儀の総合プロデュースなんか出来ないと思われているのが・・・
まあ普通の感覚かもしれない。
が私は、単純にそう思われるのが嫌なのだ。
決め付けて欲しくないし、葬儀に関することは何でもやれなくては・・・。
(と思っている)
私は、解剖にも立ち会ってきたし(実際は大学での司法解剖授業の手伝い)、
事故・事件現場からの遺体下げや、見積もりや納棺や搬送もこなしてきた。
また、付帯の花屋、花環屋、返礼品屋にも常勤して働いていた経験もある。
結局その中から選択したのが葬儀の司会・・・ということだ。

とまあこの事は、私を良く知る古くからの葬儀社さんなら意外と知っている。
何故なら、都内及びその近郊のあらゆる火葬場で、
担当者として遺族に随行していた時期が10年ほどはあるからである。

そんな訳で、3年前弊社がこの地に移転した時には、
倉庫にはまるで葬儀社のような荷物が所狭しと山積みされ、
同じ敷地に我が家が建った。
小さな田舎町だからどんな噂が流れたかは想像に難くない。
(近隣の葬儀社の一つが弊社を同業ライバルの進出と見たのだろうか・・・)

そんなある日の深夜1時45分頃だと記憶している。
犬が吼え続けている。
少し異常を知らせる雰囲気があり、家内が2階の寝室からそっと覗くと、
誰かが玄関先でゴソゴソとやっていたらしい。
(私は熟睡していたのです)
懐中電灯を手に降りて玄関を開けると、今までそこに誰かが居た気配が・・・。
少し遠くで自転車のペダルの音が聞こえた。
我が家の敷地は袋小路になっているため、
道を抜けられなかったその自転車が猛スピードでUターンして来た。
疑うことを知らない家内は、夜道は危ないと思って、
その自転車の足元を照らしてやったとか・・・。
そして闇の中を自転車は駆け抜けて行った。
尋常なスピードではなかったらしい。

何事も無かったかのように夜が明けていつもの朝を迎えた。
新聞を取りに玄関を開けると、娘の自転車がなく、
また見知らぬカバンが家内のママチャリの籠の中に入っている。
まったく恥ずかしい話だが、そこで始めて異変に気付いたのだ。

最初は、そう最初はただの自転車泥棒かと思った。
しかしよく考えてみると、道路から敷地に侵入し、
我が家にたどり着くには50メートルは歩かねばならない。
道路脇の母屋の前にも数台の自転車があるし、
それらを素通りして、わざわざ娘の自転車を???

鍵を解くヒントは、現場に残されたカバンの中にあった。
警察には通報するけれど、ここで私の刑事魂が騒がないわけがない。
(今度生まれてきたら刑事になろうっと)
通報のその前に、ちょっと遺留品を・・・。
ワクワクする気分で、それでも冷静に指紋が付着しないように手袋を嵌め、
全神経を集中して静かにカバンに耳を傾ける。
(こういうことを一度やってみたかったのだ)

『大丈夫だ、時限爆弾ではない』
『当たり前よ、ただの忘れ物でしょ!』
と家内の声が、緊張で包まれた静寂をぶち壊す。
『爆弾だったらどうすんだよっ!』
『死ぬだけよっ!』
『うっ・・・何だよ、泥棒の足元照らしたくせに・・・』
すでに私の負けである。

さて、中から出てきたものを、新聞紙の上に並べて
名探偵の推理を働かそうと思ったが・・・。
手袋(ゴム付き)、画鋲、小さな鋏、地図、電子手帳・・・
こっ、これは、私の現場七つ道具と一緒だ。
しかもご丁寧に、手書きの地図まで入っていて、その地図は
近隣のある葬儀社を基点に、式場や火葬場の路線図が描かれてあった。
更にその手書きの地図は、葬儀の付帯業者が毎年配っている
カレンダーの裏に書かれていたのだ。
(友引の日が分かり易いカレンダーである)

この時点で犯人が判ってしまい、ホッとすると共につまらない思いをしたけど、
その後の警察とのやりとりが何とも間抜けである。
訪れた警察の方は、いきなり素手でそのカバンを取り上げ
かなり無造作に中を空けた。
手袋(ゴム付き)、画鋲、小さな鋏、地図・・・
短い沈黙の後に発せられた言葉は、
『んー、これは、新手の窃盗犯かもしれない・・・』
? 嘘だろ、誰が見ても葬儀社じゃん。
ここから私の説明が始まった。
軍手は祭壇を運ぶ時に、画鋲は幕を留めたり紙を留めたり、
鋏は幕を切ったりetc・・・。
プライドを傷つけられたのか、警察の方は憮然としている。
おまけに、このカバンは拾得物扱いで、自転車は盗難届けを・・・とのこと。
えっ、じゃこのカバンの落とし主が現れたら
「めでたし、めでたし」で返却するんかい !
泥棒の落し物を、被害者である私が拾ったことになるんかい !

「ぶちっ」と音がしたような気がした。
脳の血管が3本はいったであろう。
・ ・・その後のひと悶着は、とても誌上では公開できそうもない。

あれから3年、確たる証拠もあるが、
全国各地の講演で、この業者のことを名指しで話したことはまだない。
「手帳を忘れていく泥棒」なんて、映画か小説の題名にもならないだろう。
一応知らない振りをしてあるのだが・・・。

そしてその後・・・、
娘の自転車は近くのスーパーに乗り捨ててあるのを家内が発見し、
疑わしき近隣の葬儀社は誤解に気付いたのか、
嫌がらせはピタリと収まっているこの頃である。
名付けて
「危機一髪 !深夜の中古自転車盗難事件」(関谷風)
または
「生まれ変わっても、間抜けな刑事にはならないぞ事件!」(井手風)

皆さん、盗難にはくれぐれも気をつけましょうね。

《おまけ》
昨日は寒の入り(小寒)でした。
これからの2週間が本格的な寒さの襲来です。
風邪やインフルエンザには気をつけたいと思います。
大寒(1月20日)を過ぎれば、後は暖かくなるだけ・・・、
と気休めでもプラス思考で乗り切りたいですねえ。
そして節分(2月3日)は、文字通り冬と春を分けるのでしょうから、
その翌日の2月4日が立春です。
なーんだ春はもうすぐか、と思いましょう。
暖かな春が恋しいですなあ。
(今日は長くてごめんなさい)

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年01月06日 22:37

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